「996」という言葉を知っているかな?中国IT業界の働き方に関する隠語なんだ。

初めて聞きました!

「996」とは朝9時から夜9時まで、週6日働く、というIT業界の働き方のことを指している!どうやらこのしわ寄せが中国の若者を苦しめているようなんだよ。今日から全2回で、生の事例を見てみよう!

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中国IT業界の「996体制」

IT業界の働き方としては普通?

996:朝9時から夜9時まで、週6日間働く、という勤務形態のこと

IT業界では「996」の働き方は、特に珍しいことではありません。日本でも同様でしょう。日本では「働き方改革関連法」が19年4月より施行されたことで、(勤務間インターバルなど)労働者側の働き方は緩和されることに期待が集まりますが、中国ではまだそういった動きは見られない。IT業界の闇です。

法律上も違法の疑いがあります。雇用契約上の労働条件として、通常の勤務時間に「残業織り込み」が当たり前であり、残業代が支払われないことが多くあるようです。まさに典型的なブラック企業の手口ですね!

巧な印象操作も

一般的には、IT業界で働くプログラマーは「高大上(ハイレベル)」と呼ばれて、エリート・高給取りというイメージがあります。確かに、一般的なサラリーマン(上班族)と比べて収入は多いが、そこを巧みに利用して「残業代込み」の働き方を是認させているとも思えます。

さらに会社(全てブラック企業)によっては、会社文化に加え、道徳的な色合いさえも加えているから、さらに質が悪い。例えば、このような勤務体制(996)を積極的に受け入れる社員が、仕事に前向きで開拓精神に溢れ、夢や希望を持っていると評価される一方で、積極的に受け入れない社員には、楽をすることばかり考え、その場しのぎの仕事しかしないと、非難の目を向けられたりするのです!

反旗を翻したプロジェクト「996.ICU」!

こうした状況に反旗を翻したプログラマー達がいました。ソースコードの管理・共有プラットフォームとして有名な「GitHub」上で、「996」体制を撲滅する目的で、「996.ICU」という名前のプロジェクトを立ち上げたのです!!「996.ICU」とは、「996で働くと、病気になってICU(集中治療室)に行く羽目になる」という意味が込められています。このプロジェクトに、多くのプログラマーから大きな反響がありました。

これは非常に希望を持てる動きですが、まだ体制を変えるまでの火力がありません。以下では実際の若者の苦難に満ちた、生の声を聞いてみましょう!

996に実際に苦しむ若者ケース前編

CASE1 宋さん:まるでタイマー

氏名 宋さん(男性・仮名)
年収 15万元(約250万円)
職種 IT会社の営業担当
一言 僕はまるで「タイマー」だ。毎日決まった時間に仕事を上げなければならない

僕がこの会社で働き始めてまだ5か月。当時はこれから2年の間に、中国IT市場では「SaaS(サース:Software as a Serviceの略)」が爆発的に発展するだろうから、自分も今のうちにしっかりとスキルを身に着けておこう、という明確な目的を持っていました。

僕の場合、「996」の定義には少しあてはまりませんが、朝の8時から夜の7時半まで働き、大体週末も含みます。試しに僕の今年の3月のスケジュールを表にしてみました。下図を見てみてください。まるで毎日、決められた時間に決められたアウトプットを出し続ける、「タイマー」のようだと思います。
仕事のスケジュールは、きっちろ30分単位で管理されています。僕の生活はすべて仕事で埋め尽くされてしまいました。

会社がこうした労働管理を実施するのも理解はできます。業績へのプレッシャーもあります。前にいた会社は社員のアウトプットを数値化する手段を欠いていたため、固定費ばかり膨らみ効率も悪く、業績不振でした。

とはいえ、やはりこのようにタイマーのように30分単位で管理されては、効率もやはり上がり切りません。同僚とも、この点について相談することがありますが、彼も同じで、会社に期待されるアウトプットを達成できていません。頑張れば頑張るほど気は焦り、タバコの本数もみるみる増えていきました。結果的に、彼自身のスキルに自信が持てなくなりました。

もう一人の同僚は非常に要領がよく、割り切った考えをしています。「まあIT業界なんてどこも同じさ、どこに18時や19時に帰っていいなんて会社があるんだい?「996」は詰まるところ、IT業界の連中なら、暗黙の了解で承知しているってことさ」

ところで、僕は去年結婚をしました。今は毎日7時に起きて、夜の9時に家に到着します。この生活リズムは既に僕の新婚生活に影響をもたらし始めています。奥さんは、あえて怒ったりはしませんが、一緒にいて感じるのです。逆に怒らないでいる彼女を見ると、僕の心は締め付けられます。そしてとうとう、奥さんは僕に「会社を辞めてほしい」と言いました。

今は転職活動をしていますが、「996」と週末勤務は僕をダークサイドに陥れます。僕もそれぞれの会社にはそれぞれの事情があることは理解はします。今日は会議がある、明日はイベント開催する、などは喜んで対応しますが、やはり「996」は異常です。腰痛はひどくなるし、睡眠不足は日常的になるため、毎日出勤する道で自分は監獄で作業をさせられている囚人のような気持になります。

ある日、そんな気持ちが爆発したのです。その日は9時に会社に到着しましたが、天気も悪く、夜の8時までずっと室内で籠って作業していました。頭がぼーっとして考える力が出ません。会社に到着したときは、まだ太陽が昇っていませんでしたが、帰るころにはもう太陽は沈んでいるのです。こんな生活はもう続けたくありません。

CASE2 張さん:24時間営業のコンビニ人間

氏名 張さん(男性・仮名)
年収 10万元(約170万円)
職種 ITベンチャーの運営担当
一言 俺は24時間営業のコンビニ人間だ、今では保安や清掃のバイトと兼業さ!

IT業界では「996」を問題視していると聞くけど、私にとっては羨ましい制度です。なぜなら、私は今の会社では24時間体制で働いているのです。

私は新卒で、現在のITベンチャー企業から内定をいただきました。何と、社長は私を気にかけてくれて、会社に無料で泊っていいと申し出をいただきました。「こんな素晴らしいことも世の中にあるものか!」と、当時はそれは感激し、毎月家賃の3000元くらいを節約し、貯金にまわすことができました。本当にいい会社です。

しかしこれが社長の思惑だったと知るのは、入社してしばらくしてから。当時の世間知らずの自分の考えなんて本当に甘かったと、心より思っています。これは社長の計算だったのです。「会社に住む」ことで、毎日会社の財産を守る責任が発生します。わかりやすく言うと、保安の仕事も一緒にやらなければならない、ということなのです。夜8時にゲートを閉め、朝8時にまた開門する必要があります。ある日、私は不注意により1時間ほど寝坊をしてしまいました。会社のみんなを、1時間ほど会社のゲートの前で待たせてしまいました。本当に申し訳なく思っています。

また言うまでもないですが、「会社が私の家」なので、掃除もやらなければなりません。最低限の礼儀です。でも何より、一番大変なのは、保安でも掃除でもなく、24時間会社にいることで、残業が実質「無制限」ということです。週末に友人と食事を楽しんでいたら、社長から連絡をいただき、すぐに緊急会議に呼び出されました。友人との食事を中断し、会社(=家)に戻って、一緒にパワーポイントを深夜まで作成しました。

今では、私の全世界は、会社から半径300メートル内ですべて済ませることができるようになりました。コンビニが近くになるので、タバコと弁当を買うくらいですね。幸いなことに、最近、会社のビル内にもコンビニができたため、実はもう一歩も外に出る必要ないのです。

以上より、私にとっては、「996」はかなり恵まれている制度だと思い、羨ましいです。少なくとも「自由」時間があるのですから。

CASE3 張さん:意識を失えば休んでいい

氏名 張さん(女性・仮名)
年収 30万元(約500万円)
職種 化学品メーカのエンジニア
一言 休む権利を得られるのは、唯一「意識を失ってから」

中国の製造業は、今利益率が非常に低いため、あまり知られていませんが、IT業界の「996」より労働環境はさらに過酷といえます。

私の場合は「927」です。(朝9時から翌日2時まで、週7日働く)

もうこんな生活にも慣れました。その中でも特に大変なのは、翌日の朝6時まで残業をした後、朝ご飯を食べて、また新たな一日が始まることでしょう。長期間連続での労働なので、健康問題も心配ですね。私はまだ若い女の子なのに、髪の毛が薄くなってきました。また歯も痛いですし、心臓の調子もたまに不整脈を打っているように感じますが、病院へ検査へ行く時間もありません。通常の風邪や熱くらいでは、薬を投与して我慢しなければなりません。意識を失うレベルではないと、休めないのです。

残業代は無し、年収は30万元(500万円/額面)です。なぜ、ここまで頑張れるかと聞かれれば、私は田舎出身でいまは一人で深センという大都会に暮らしています。自分の生活もそうですが、毎月実家への仕送りも必要です。また将来は、自分自身のマンションを買いたい夢もあります。今必死に頑張らないと夢が叶わないと信じています。

もう疲れましたが、こっそり正直に告白すると、ある日突然自分が過労死することができれば、とても有難いです。

 

若者の生の声はいかがでしたか?日本のブラック企業も社会問題になってますが、中国のブラック企業も根は深いようですね。若者が苦しめられています。次回は、中国の若者が抱えるプレッシャーの度合いについて、もう少し掘り下げて考えてみましょう!